AI・業務改善

脳科学の「予測する仕組み」でロボットが複数の介護動作を同時学習 〜NCNPと早稲田大学が新AIモデルを開発、論文はScience Advancesに掲載〜

投稿日 2026年8月17日

国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター(NCNP)と早稲田大学の研究グループは、脳科学理論「予測処理(自由エネルギー原理)」に基づく新たなAIモデル「Scalable PV-RNN」を開発し、多自由度ヒューマノイドロボットAIRECに実装しました。約3万次元の視覚・身体感覚情報を統合して「体位変換」「清拭」という性質の異なる複数の介護動作を同時学習できることを実証し、研究成果は学術誌Science Advancesに掲載されています。

研究グループは、NCNP神経研究所疾病研究第7部の出井勇人特任研究室長、山下祐一室長、三宅太文次席研究員、および早稲田大学の尾形哲也教授らです。予測誤差を最小化する単一の計算原理のみで、複雑な多感覚情報を統合できることを示した点が大きな特徴です。

何が起きたのか:予測処理という脳の仕組みをAIに応用

従来のロボット制御AIは、動作ごとに個別のプログラムや学習データを設定することが一般的でした。一方、本研究では、人間の脳が感覚情報をもとに次の状態を予測し、その予測が外れたときの誤差を最小化するように学習する「予測処理(自由エネルギー原理)」という理論に着目。この単一の計算原理だけで、視覚情報と身体感覚情報を統合しながら複数の動作を学習できるAIモデル「Scalable PV-RNN」を開発しました。

具体的には、多自由度ヒューマノイドロボットAIRECに実装し、約3万次元に及ぶ視覚・身体感覚情報を統合。介護現場で求められる「体位変換」と「清拭」という、動作の性質が異なる複数のタスクを同時に学習できることをシミュレーション上で実証しました。

特別なプログラムなしで「脳らしい」情報処理が創発

研究では、人間の脳で知られる以下のような情報処理特性が、特別なプログラムを追加しなくてもAI内部に自然に形成されたことを確認しました。

  1. 視覚情報が曖昧でも身体感覚から状況を推定できること
  2. 動作の切り替えを自律的に学習できること
  3. 視覚的に遮蔽された対象の位置や状態を推定できること
  4. 状況に応じた不確実性の変化を認知できること

これらの特性は、ロボットが実環境で柔軟に動くために重要とされる能力です。単一の計算原理から複雑な行動が創発された点は、今後のPhysical AI(物理世界で働くAI)研究にとって意義深い成果といえます。

論文掲載と研究支援の体制

本研究の論文は、「Predictive processing as a scalable computational principle for embodied multitask intelligence」(著者:Hayato Idei, Tamon Miyake, Tetsuya Ogata, Yuichi Yamashita)として、日本時間2026年8月15日午前3時にScience Advancesへ掲載されました(DOI: 10.1126/sciadv.aed7511)。

研究は、JST ACT-X、Moonshot R&D、CREST、AMED脳神経科学統合プログラム、JSPS科学研究費、NCNP精神・神経疾患研究開発費の支援を受けて実施されています。

今後の展望と読者が押さえておきたいポイント

本研究は現時点ではシミュレーションによる検証段階です。将来的には実際のロボット制御への応用が期待され、介護のほか物流、災害対応、製造、家庭支援など、多様な環境で複数の作業を柔軟に行う次世代ロボットへの展開が見込まれています。

介護現場では人手不足が課題となる中、ロボットが複数の作業を状況に応じて切り替えられるようになれば、業務負担の軽減につながる可能性があります。ただし、あくまで研究成果の発表であり、実用化や製品化が決まったわけではありません。今後の研究開発の進展を注視することが重要です。

また、本研究は脳科学の知見をAIに応用するだけでなく、AIの解析結果を脳科学の理解にフィードバックする循環を加速させる成果としても位置づけられています。

まとめ

NCNPと早稲田大学の研究グループは、脳の予測処理の原理に基づくAIモデルを開発し、ヒューマノイドロボットが複数の介護動作を同時学習できることを実証しました。特別なプログラムなしに「脳らしい」情報処理が創発された点は、今後のロボットAI研究の方向性を示すものといえます。シミュレーション段階であることを踏まえつつ、次世代ロボットの可能性が広がる研究成果として注目されます。

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